T.SHIRAKASHI BOOTMAKER MTO
T.SHIRAKASHI BOOTMAKER MTO
Jun 11, 2021
- CATEGORY
- INFORMATION
前回の「T.SHIRAKASHI BOOTMAKERのご紹介」に続きまして
今回はT.SHIRAKASHI BOOTMAKER のMTO(Made to Order)について深堀してご紹介します。
価格は20万円を超えるそれなりのお値段ですが、その理由を知るとむしろ良心的とさえ思えるのではないでしょうか。
では、このMTOと同価格帯のグッドイヤー製法で作られた高級靴ではどのような違いがあるのか。
これから皆さんをとてもディープなシューメイキングの世界へ誘(いざな)いたいと思います。
お伝えしたい内容がたくさんあり、少々長くなりますがお付き合いください。
【違い①】ハンドラスティング
アッパーの革を木型に沿わせ一本ずつ釘で止めていくラスティング(吊り込み)。
革の様子を見ながら強すぎず弱過ぎず適度な塩梅で丁寧に吊り込みます。
(革の様子を確認しながら吊り込む)
この作業、数秒で完了するマシンに対してハンドラスティングは丸一日と時間がかかります。
これにより可能となる立体感は手作業ならではであり、機械には真似できません。
特にトゥシェイプを比べるとその違いは一目瞭然。
(右がハンドラスティング、左がマシンラスティングの靴)
エッジの効いたトゥシェイプはハンドラスティングならではです。
さらに白樫さんの吊り込んだ靴を見ると圧倒的な釘の多さに驚かされます。
「固いボックスカーフでプレーントゥの上にキャップを縫い付ける仕様では、シワや凹凸が出ないよう丁寧に仕上げるためにかなり釘を使います。使う釘の本数よりも仕上がりを綺麗にすることを念頭において作業しています。」との事。
(もう釘を打つスペースが無いほどの緻密さ)
一般的なハンドラスティングに使う釘の本数の3倍以上は打っているのではないでしょうか。
本当に丁寧な仕事をされています。
さらに底面のエッジにも違いは表れます。
靴のウェルトとアッパーの結合部が歪みなく流れるようなラインを描くように、ラスティングの後にはしっかりとハンマーで叩いて形を出します。
片足だけでも30分~45分は叩いて成形するそうで、見えないところにも本当に手間がかけられていることが分かります。
(他にも全体的にハンマーで叩いて革を木型に馴染ませる)
(歪みなく流れるようなラインを描くウェルトとアッパーの結合部)
【違い②】ハンドソーンウェルテッド(掬い縫い)
最も大きな違いとも言えるウェルトを手縫いする作業はインソール(中底)の加工段階からグッドイヤーのそれとは大きく異なります。
一般的なグッドイヤー製法ではファブリック製のリブを中底革に貼り、それをアッパーやウェルトと縫い合わせる構造。
一方でハンドソーンウェルテッド製法は、肉厚な革の底面に彫刻のように凸型を手作業で切り出し、そこに縫い糸を通してアッパーやウェルトを縫い付けます。
後者の利点はリブが剥がれることがなく、リウェルトの際にもダメージが少ないことから強度や寿命の面でも理想的な製法といえます。
さらに、別パーツのリブが無いので屈曲を妨げる要素が少なく、フィラー(コルクやフェルトなど隙間を埋める中物)も少量で済むため、反り返りの良さが特徴となっています。
(左がハンド用、右がマシン用)
T.Shirakashiではこのハンドソーンによるウェルティングを製造工程の中で最も重視しており、ビスポークと同じ材料の糸(アイリッシュリネンを手で撚りワックスを浸透させて作った縫い糸)でしっかりと縫いあげています。
この糸作りも職人の技術と経験を要する靴の品質を左右する重要な材料の一つだそうです。
(一目ずつ緩まないようにしっかりと縫いあげる)
(掬い縫いが完了した状態)
(アイリッシュリネンに蜜蝋や松脂が配合されたワックスを浸透させた特製の縫い糸。これも工房内で手作りされる)
白樫さん曰く、「安価なハンドソーンウェルテッドの靴の中には、短時間で縫えるようにピッチが粗くてしてあったり、縫いも弱いためフィッティングが変わりやすくて強度も不十分であるなど手抜きが見られるものがある。それならグッドイヤーの方がずっと良いのでは?」との事。
その言葉に普段様々な靴の修理を手がける我々も同意できます。
さらに話は続きます。
「当工房のウェルティングは縫ってあればよいというものではなく、靴の品質と強度を上げるためにしっかりと縫い付けています。見えない部分ですが、この差は防水性や寿命に大きく影響します。」
なるほど。この言葉通り、上質の素材を使いしっかりと縫い上げる熟練の技術を要するハンドソーンウェルテッドは時間もコストもかかり、それが故に価格に反映されますが、長い目で見たときの耐用年数を考えると決して高額ではないと言えます。
さらに、T.Shirakashiでは中底や爪先と踵の芯材、ウェルトに至るまで英国老舗160年の歴史を受け継ぐタンナー、J&FJ Bakerのオークバークを使用しています。
このオークバーク、日本で手に入る一般的な材料の何倍も価格がするそうですが、これに代わるものがどうしても見つからないのでコストよりも品質重視で採用を決断したそうです。
(MTOで使用されるオークバークレザー)
【英国最古のタンナーであり、今も名だたるビスポークメゾンに材料を供給するJ&FJ Baker。オークバークの鞣しには約1年の歳月と手間がかけられる(写真提供:J & FJ Baker)】
ここまで材料に拘るMTOの靴は海外も含めてごく僅かではないでしょうか。
20万円を超える高級既製靴でもマシンを使う部分も多く、芯材はケミカルな溶剤芯が使用されているものがほとんど。
細かな材料についてタンナーまで公表しているメーカーは他に当たりません。
大規模な生産体制を有するメーカーにはできない、小規模のメーカーのMTOだからこそ出来る利点と言えます。
このように、白樫さんは英国の靴作りを忠実に再現するため、製法だけでなく道具や材料も全て古(いにしえ)から伝わる英国の伝統に従って製作しているという徹底ぶり。
「創意工夫は必要だとしても、変えてはいけないところは変えない」というポリシーを実践しているそうです。
上記の製造前半部分は横浜の工房で白樫さん自身、もしくは経験を積んだビスポークのアウトワーカーが作業を担当します。
材料・製法に至るまでMTOとビスポークは全く同じですので両者は区別される事なく真剣に製作が行われています。
実際に、誰がどのように製造しているかという透明性も純国産MTOの利点ですね。
そしてウェルティングまで完了した靴はユニオンワークスに作業が引き継がれます。
弊社ファクトリー熟練スタッフにてソールの縫い付け、ヒールの取り付けを行い、コバやソール底面の仕上げをして完成します。
(ユニオンワークスファクトリーでの作業)
ここでも手作業の要素が多く、長年 英国靴をはじめとする様々な靴の修理を行ってきた経験が遺憾なく発揮されています。
(定評のあるボトムの仕上げ)
レザーソールはもちろん、ラバーソール、半カラス、ダブルソール、ヴィンテージスチール等、お好みの仕様にカスタマイズしていただけます。
一部工程はマシンメイドで仕上げているため、ビスポークよりも価格を抑える事ができます。
さらに修理は通常のユニオンワークスのメニューを使用できるため、ヒール交換やオールソールなど、ビスポークシューズの修理に比べてリーズナブルにメンテナンス・維持できるのもポイントかと。
ビスポークメーカーとユニオンワークスが手がける、限界まで手間をかけたハンドソーンウェルテッドのMTO。
実物を見て頂けると、そのクオリティの高さを実感することが出来るかと思います。
(MTOサンプルの新作Derby)
この他にも新作ができる予定。
インスタグラム等で随時アップしていくそうです。
オーダー会概要
6月26(土)、27(日)で予定しております。
UNION WORKS The Upper Gallery
242,000円(税込み)~
※シューツリーは英国ファクトリー製のためコロナウィルスの影響でさらに期間が必要になる場合があります。
オリジナルシューツリー、シューバッグ、ボックス
いかがでしたでしょうか。
靴好きにはたまらないディープな内容だったかと思います。
心の底から「秀逸なプロダクト」と言えますが、文章と画像だけでは伝わらない部分も多いと思います。
当日はフィッティングサンプルもご用意しておりますので、まずは実物を見て、話を聞いて、試していただけたらと思います。
お気軽にお問い合わせ、ご予約ください。
https://shirakashi.jp/pages/contact
ありがとうございました。
横浜店 シン